OpenAIが3月24日、動画生成AI「Sora」の終了を発表した。
リリースからわずか6ヶ月。iOSアプリもAPIもSora.comも全部閉じる。
これ一部始終は一体何だったのか。その裏側を見ていこう。
Soraが巻き起こした熱狂
Soraの始まりは2024年。OpenAIがデモ映像を公開した瞬間、世界中が騒いだ。「AIで映画が作れる時代が来た」とまで言われた。
2025年9月、Sora 2がスタンドアロンアプリとしてリリース。初日で10万インストール、最初の5日間で100万ダウンロードを突破。11月には月間330万ダウンロードに達し、App Storeで1位を獲得した。
日本でも熱狂は凄まじかった。リリース直後、ドラゴンボール、進撃の巨人、千と千尋の神隠し、ポケモンなど、日本のアニメキャラクターを使ったAI動画が大量に生成され、TikTokで数十万いいねを獲得するものも出てきた。
あまりの無断使用ぶりに、スタジオジブリやバンダイナムコ、スクウェア・エニックスが加盟する海賊版対策団体(CODA)がOpenAIに対して学習データからの除外を要求する事態にまで発展した。
良くも悪くも、Soraは「AIで何でも作れる」という夢と、著作権の現実を同時に突きつけた。
それがたった半年で終了。
理由はシンプル。赤字が凄すぎた
数字を見ればわかる。
- 推論コスト: 1日あたり約22億円(1,500万ドル)
- 10秒の動画1本を生成するのに約19,500円(130ドル)
- 年間換算で約8,100億円(54億ドル)のコンピュート費用
- アプリ内の総収益: たった約3億円(210万ドル)
1日22億円のコストに対して、全期間の収益が3億円。これはさすがに持たない。
ユーザー数も急落していた。11月のピーク330万ダウンロードから、2月には110万ダウンロード。3ヶ月で66%減。
Soraの開発チームは2025年11月時点で「GPUが溶けている」と表現していたらしい。文字通り、計算資源を燃やし続けていた。
Disney 1,500億円ディールも崩壊
Soraの終了と同時に、もう一つ大きなニュースが出た。
Disneyとの約1,500億円(10億ドル)の提携が白紙になった。
2025年12月に締結されたこの契約は、Disney、Marvel、Pixar、Star Warsのキャラクター200体以上をSoraでライセンスするという壮大な計画。ユーザーがプロンプトを入力すれば、ディズニーキャラクターが動く動画を生成できるはずだった。
Disneyは「OpenAIが動画生成ビジネスから撤退する決定を尊重する」とコメントしている。
ショッピング機能「Instant Checkout」も終了
同じ3月24日、ChatGPT内のショッピング機能「Instant Checkout」も終了している。
ChatGPT上で商品を検索して、そのまま購入できるという機能。2025年9月にリリースされたが、ユーザーがほとんど使わなかった。
OpenAIのコメントは「求めていた柔軟性のレベルに達しなかった」。今後は商品比較などの「発見」機能に注力するらしい。
この件については以前の記事で詳しく書いているので、気になる方はこちらを。
(参考:ChatGPTショッピング機能の頓挫)
一方で、売上は爆発的に伸びている
ここからが面白い。
OpenAIの年間売上は約3.75兆円(250億ドル)に到達している。2025年末の約3.2兆円(214億ドル)から、わずか2ヶ月で17%成長。
| 企業 | 年間売上 約3.75兆円(250億ドル)までの期間 |
|---|---|
| OpenAI | 約3年3ヶ月 |
| 約12年 | |
| 約17年 | |
| Salesforce | 約18年 |
歴史上、ソフトウェア企業がこのスピードで売上を伸ばした例はない。
何がこの売上を支えているのか。内訳を見るとシンプル。
- ChatGPTのサブスクリプションが最大の柱。Plus(月20ドル)とPro(月200ドル)の有料ユーザーが増え続けている
- 法人向け(Enterprise/Team)が最も成長が速い。法人顧客は100万社を突破し、有料ビジネスユーザーは900万人超
- API/開発者プラットフォーム。推論トークンの利用量が前年比320倍に増加
つまり、ChatGPTの個人課金と法人導入が爆発的に伸びている。週間アクティブユーザーは9.1億人。1年前の約2倍。
SoraやCheckoutが消えても売上が伸びているのは、本業のChatGPTとAPI事業がそれ以上に稼いでいるから。
赤字事業を切り捨てる理由はIPO
売上は伸びている。でも赤字プロダクトは容赦なく切る。
その理由はIPO。
OpenAIは2026年後半の上場を準備している。目標時価総額は約150兆円(1兆ドル)。直近の評価額は約109兆円(7,300億ドル)。実現すれば、株式市場史上最大のIPOになる。
投資家に見せるべきは「夢」ではなく「利益率」。だから赤字プロダクトは容赦なく切る。
サム・アルトマン自身、IPOについてこう語っている。
(参考:Fortune)
「上場企業のCEOになることにワクワクしているか? 0%だ」
それでもやるのは、AIの開発に途方もない資金が必要だから。
Anthropicが猛追している
もう一つ見逃せない数字がある。
Anthropicの年間売上が約2.1兆円(140億ドル)に達している。14ヶ月前はまだ約1,500億円(10億ドル)だったのが、約10倍のペースで成長している。OpenAIの年間成長率が約3.4倍なのに対し、Anthropicは約10倍。ある分析では2026年中盤に売上が逆転する可能性すらある。
さらに注目なのは法人市場でのシェア。エンタープライズAI市場でAnthropicのシェアは40%に達し、OpenAIの27%を既に逆転した。Fortune 100企業の70%がClaudeを導入していて、初めてAIを導入する企業の73%がAnthropicを選んでいる。
Claude Codeの急成長も大きい。「ChatGPTモーメント」と呼ばれるほどの爆発的な普及が起きている。
この競争環境も、OpenAIが不採算事業を切って本業に集中する動機になっている。
「AGIの夢」から「稼ぐ現実」へ
Soraの死は、OpenAIだけの話ではない。
思い返せば、OpenAIは「人類がまだ到達していないAGI(汎用人工知能)を作る」という壮大なビジョンを掲げて始まった。そのビジョンに世界中の投資家が興奮し、巨額の資金が流れ込んだ。
でも、夢だけではお金は回らない。
「AGIを作る」という看板だけで資金が集まるフェーズは終わりつつある。これからは、実際に事業で稼いで利益を出さなければ、次の資金調達もIPOも成立しない。
Soraは技術的にはすごかった。でも1日22億円の赤字を正当化できるほどの収益は生まなかった。
技術的にできることと、ビジネスとして成立することは全然違う。Soraの死が教えてくれるのは、その冷たい現実。
これはAIを使う側にとっても示唆がある。「すごい技術」に飛びつくのではなく、実際に自分のビジネスで収益に繋がるAI活用を選ぶことが大事だと改めて思う。
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