気がつけば、日本の行政がかなり本気でAIを入れ始めている。
総務省の調査によると、都道府県の87.2%、政令指定都市の90%が生成AIを導入済み。導入済みの中身はChatGPTやCopilotといった生成AIチャットを業務に使えるようにしたもので、議事録作成や文書の下書きなどに活用されている。市区町村でも導入予定を含めると半数を超えた。
(参考:総務省「自治体における生成AI導入状況」令和7年6月30日版)
政府が18万人の職員にAIを配る「源内」
デジタル庁が開発した生成AI環境「源内(げんない)」が、2026年5月から全府省庁の約18万人の政府職員を対象に大規模実証を開始する。
目的は、行政の業務全般で職員がAIを日常的に使える環境を整えること。国産LLMを構築し文書作成、データ分析、問い合わせ対応など、幅広い業務にAIを組み込んでいく。
国産LLMの公募に15件の応募があり、そこから7モデルが選ばれた。NTTデータの「tsuzumi 2」、KDDI×ELYZAの「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」、ソフトバンクの「Sarashina2 mini」、NECの「cotomi v3」、富士通×Cohereの「Takane 32B」、Preferred Networksの「PLaMo 2.0 Prime」、カスタマークラウドの「CC Gov-LLM」。
データ主権とセキュリティを確保するため、海外のAIに頼らず、国産モデルで行政を回す想定で進められている。
2027年度に本格利用を開始する予定で、実現すれば世界的にもかなり大規模な行政AI導入になる。
自治体の現場では何が起きているか
国だけじゃない。自治体レベルでもAI活用が広がっている。
いくつか具体例を挙げると。
- 下呂市: GoogleワークスペースのAI機能を業務に導入。会議の資料作成から議事録の共有まで、9時間かかっていた作業を50分に短縮
- 千葉県: 生成AIチャットボット「いつでも福祉相談サポット」を導入。24時間365日、WebとLINEで福祉相談に対応
- 渋谷区: 生成AIチャットボットで行政手続きや制度の問い合わせに自動回答
どれも「とりあえず入れてみた」ではなく、具体的な業務課題を解決するために使われている。
東京都の「A1」は一歩先を行っている
そして直近での事例は、東京都が4月9日に本格運用を開始した生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」。
ざっくり言うと、東京都の職員が業務用のAIアプリを自分で作れるプラットフォーム。
ChatGPTやClaudeのような「AIと会話するだけのツール」ではない。職員がプログラミングなしで、自分の業務に合ったAIアプリをノーコードで組み立てて、庁内で共有できる仕組みになっている。

名前の「えいいち」は渋沢栄一から。近代産業の基盤を築いた人にちなんで、AI活用の基盤になってほしいという意味が込められている。
誰が作って、誰が使うのか
このプラットフォームを作っているのは、東京都デジタルサービス局と一般財団法人GovTech東京。この2組織が連携して、外注ではなく内製で開発している。
GovTech東京は2023年に設立された東京都のデジタル専門組織で、民間のエンジニアやデザイナーが多く在籍している。行政のシステムを「自分たちで作る」ための部隊。
対象は消防庁などの一部組織を除く、都庁の全職員約6万人。特定の部署だけじゃなくて、事務職も技術職も含めた全庁展開になっている。
最大の特徴は「職員自身がAIアプリを作れる」こと
A1のポイントは、よくAI導入で採用されるような単なるチャットAIではないということ。
職員がノーコードで、自分の業務に合ったAIアプリを開発できる。プログラミングの知識は不要。
しかも開発したアプリは庁内で共有できる。誰かが作った便利なアプリを、他の部署でもそのまま使える仕組みになっている。

すでに動いているアプリの例
庁内で共通利用が進んでいるアプリがいくつかある。
- 契約仕様書の作成支援: 契約に関わる仕様書案をAIが下書きしてくれる
- AI導入サポート: 部署にAIを導入する際に対応すべきポイントを整理してくれる
- 答弁検討の支援: 都議会の議事録をもとに、過去の答弁内容を検索・整理できる
どれも「あったら便利だけど、わざわざ外注してシステムを作るほどでもない」ような業務。こういうのをノーコードでサッと作れるのが強み。
実際みんな使ってるのか
6万人のうちどれくらいが実際に使っているかの公式データはまだ出ていない。4月9日に本格運用が始まったばかりだから、利用率が見えてくるのはこれからの状況。
2025年9月から約半年間の試行運用を経て、運用ルールや利用環境を整えてからの全庁展開。試行期間中に上のアプリ例のような実用的なものが生まれている。
とはいえ6万人全員がアプリを作り始めるかと言えば、そんなことはないだろう。おそらく各部署に数人の「作れる人」が出てきて、その人が作ったアプリを部署全体で使う、という流れになるんじゃないかと思う。
他の自治体でも使える「デジタル公共財」

面白いのは、A1で開発されたアプリは東京都庁の中だけでなく、他の自治体でも再利用できる設計になっていること。
つまり東京都が作ったAIアプリを、別の市区町村がそのまま使えるかもしれない。これは「デジタル公共財」という考え方で、行政のDXを加速させる仕掛けになっている。
行政のAI活用、正直ここまで早いとは思わなかった
マイナンバーカードの混乱とか、自治体のシステム統合が何年も遅れてるとか。正直、行政のDXってうまくいってない印象がずっとあった。
でも今回の動きは明らかにスピード感が違う。
これまでDXがなかなか進まなかった行政が、AIに関してはここまで動いている。
これで本当に行政が変わってくれるのか。期待して見ていきたい。
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