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もう弁護士の70%がAIを毎週使っている。「AIに仕事を奪われる」と言われた業界の現実

「AIに仕事を奪われる職業ランキング」みたいな記事、数年前によく見かけた。

あのランキングで常に上位にいたのが、弁護士や法律事務所のスタッフ。

で、実際どうなっているのか気になって調べてみたら、奪われるどころか、めちゃくちゃ使い倒していた

法律専門家の70%がAIを毎週使っている

Law360 Pulseが2026年3月に公開した調査がある。

対象はアメリカの法律事務所に所属する弁護士約390名(2025年版の規模から推定)。アソシエイト28%、エクイティパートナー25%、ノンエクイティパートナー9%、残りがスタッフ弁護士やソロ開業弁護士という構成。

この調査で、70%の弁護士が少なくとも週1回はAIを業務に使っていると回答。前年から大幅に増加している。
(参考:Law360 Pulse: The 2026 AI Survey

ただ、これはアメリカの法律事務所に所属する弁護士が対象。ベテランや高齢の弁護士がどこまで含まれているかは明記されていないので、数字をそのまま「弁護士全体」として受け取るのは注意が必要。

何に使っているのか

用途のトップ3がこれ。

  • 文書レビュー(77%)
  • 法務リサーチ(74%)
  • 文書要約(74%)

さらに書面の起案にも59%が使っている

法律の仕事って、膨大な文書を読んで、判例を調べて、書面を起こすことの繰り返し。そのど真ん中の業務にAIが入り込んでいる。

Wolters Kluwerの国際調査だと90%以上

もう一つ、Wolters Kluwerの「Future Ready Lawyer 2026」調査も見た。

こちらは規模が大きくて、アメリカ、中国、ヨーロッパ8カ国(ドイツ、オランダ、イギリス、ベルギー、フランス、イタリア、スペイン、ポーランド、ハンガリー)の法律事務所・企業法務部門に所属する弁護士810名が対象。2025年8月にオンライン調査で実施されている。

結果は、90%以上の法律専門家が少なくとも1つのAIツールを使用
(参考:Wolters Kluwer Future Ready Lawyer 2026

10カ国を横断した調査でこの数字なので、AIの浸透は特定の国に限った話ではなさそう。

個人利用が先行するのは、業界構造を考えれば当然

ここで一つ気になるデータがある。

公式なAIプログラムを導入している法律事務所は56%にとどまっている

個人では大多数が使っているのに、組織としての導入は半分強。

ただ、これは冷静に考えると当たり前かもしれない。

ABA(アメリカ法曹協会)のデータによると、アメリカの法律事務所の約75%以上が弁護士5人以下の小規模事務所で、ソロ開業(個人事務所)が全体の約40%を占めている
(参考:Embroker: Solo Law Firm Statistics

大企業のように「全社的なAI導入プログラム」を組むような組織構造ではない。個人事務所や数人の事務所がほとんどの業界では、そもそも「組織導入」より「個人利用」が自然な広がり方になる。

日本の士業も同じ。弁護士、税理士、司法書士、行政書士。基本的に個人事務所か少人数の事務所が多い。個人の判断でChatGPTを使い始めて、それが当たり前になっていく流れは、むしろ自然な進み方だと思う。

今は「ツール」として使うフェーズ。でもその先がある

現時点でのAI活用は、あくまで「弁護士がAIツールを使って業務を効率化する」段階。

文書レビューをAIに手伝わせる、判例検索をAIに任せる。人間が主役で、AIは道具。

でも、次のフェーズはもう見えてきている。

「AIエージェント」が自律的に法律業務を実行するフェーズ

Harvey AIの「エージェント」は、もう法律業務を自律的にこなしている

リーガルテックのスタートアップHarvey AIが、まさにその領域に踏み込んでいる。

2026年2月に時価総額110億ドル(約1.6兆円)で資金調達。8ヶ月前の50億ドルから倍以上に跳ね上がった。
(参考:CNBC: Legal AI startup Harvey valued at $11 billion

Harveyの「Agent Builder」機能では、AIエージェントが複数ステップの業務を自律的に実行できる。

  • デューデリジェンスチーム向け:文書検索→リスクフラグのテーブル作成→クロージング後チェックリスト生成を自動実行
  • 訴訟チーム向け:文書レビュー→ドラフトメモの作成まで一気通貫
  • ファンド組成:長時間にわたる複数ステップのワークフローをAIが処理

現時点で25,000以上のカスタムエージェントがHarvey上で稼働し、1日40万件以上のクエリを処理している。
(参考:Harvey: How Autonomous Agents Will Transform Legal

さらにHarveyが開発中の「Spectre」は、社内エージェントとして様々な業務を自律的に処理し始めている。Artificial Lawyerはこれを「法律事務所のワールドモデル」と表現した。
(参考:Artificial Lawyer: Harvey’s Spectre Agent

2026年はリーガルテック全体が「エージェント化」した年

Harvey AIだけじゃない。

2026年Q1、Thomson Reuters(CoCounsel)、LexisNexis、DISCO、Epiqなど主要リーガルテック企業が一斉にAIエージェント型の製品をリリースした。
(参考:National Law Review: Ten AI Predictions for 2026

Gartnerは、契約レビューにAIを活用する企業は処理時間を50%削減でき、低リスクの契約では人間の介入なしで処理する「ゼロタッチ契約」が実現すると予測している。

「AIアシスタント」から「AIエージェント」へ。ツールとして使うフェーズから、AIが自律的にタスクを実行するフェーズへ。この転換が2026年に一気に進んだ。

「仕事を奪われる」のは、もう少し先のフェーズかもしれない

今の段階では、AIエージェントが処理するのはあくまで「定型的な作業の自動化」。弁護士の判断を代替するところまではいっていない。

Harvard Law Schoolの調査でも、AmLaw 100(アメリカの売上上位100法律事務所)で弁護士の人員削減を予定している事務所はゼロ。特定のタスクでは100倍の生産性向上を報告しつつも、弁護士そのものは減らしていない。
(参考:Above the Law: AI Won’t Replace Lawyers But Can Create Critical Shortage Of Good Ones

でも、この先はどうか。

AIエージェントが契約書を自律的に作成し、デューデリジェンスを自律的に完了し、判例調査から書面起案まで一気通貫で処理する。その技術的な基盤は、もう揃いつつある。

本当に「仕事を奪われる」フェーズが来るとしたら、それはAIが「ツール」から「自律的な実行者」に完全に移行したとき。

また、Above the Lawの記事はむしろ逆説的な問題を指摘している。AIが優秀になりすぎると、若手弁護士が実務経験を積む機会が減る。10〜20年後、AIエージェントの群れを監督できるだけの能力を持った弁護士が足りなくなるかもしれない。

つまり、もう少し先のフェーズで「AIに仕事を奪われる」。そして、それと同時に「AIを監督できる人間がいなくなる」も訪れる可能性があるのだ。

まとめ:フェーズは確実に変わりつつある

現状を整理するとこうなる。

  • フェーズ1(現在):弁護士がAIを「ツール」として使って生産性を上げる。個人利用が中心
  • フェーズ2(進行中):AIエージェントが複数ステップの業務を自律的に実行。人間は監督・判断に集中
  • フェーズ3(将来):AIが法律業務の大部分を自律的に処理。人間の弁護士は高度な判断と責任を担う
  • フェーズ4(さらに将来): 弁護士業務がAI奪われ、そして同時にAIを監督できる人間もいなくなっていく?

「AIに仕事を奪われる」と言われた業界は、今のところAIを最も使いこなしている業界になっている。

ただ、今は「使いこなす」フェーズであって、「代替される」フェーズはこの先に控えている。その転換がいつ来るかは、Harvey AIやThomson Reoutersのようなリーガルテック企業のエージェント技術の進化次第だと思う。


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Author

松原 潤

松原 潤

官公庁→大手向けITコンサル→SIer→中小企業向けITコンサルを経験。 現在はAIコミュニティ「AI LIFE」を運営しつつ、DX/業務改善、CRM・Web・データ活用を支援。 生成AIと自動化で“売上アップ×工数削減”を実現するのが得意です。