活用事例

中小企業の「DX担当を1人作る」 vs 「全社員AIにする」、結局どっちが伸びるか。

中小企業のAI導入を進めようとすると、ほぼ必ず2つの方針で意見が割れます。

一つは「DX担当を1人作って、その人を中心に進める」。もう一つは「全社員に使わせて、現場から自然発生的に広げる」

どちらが正解か、というよくある記事の結論は「両方やりましょう」になりがちですが、実際にこれまで船井総研にて何十社もDX支援をしてきたのと、KMCにてAI導入を進めてきて感じることは違います。

業種・規模・社風で、向き不向きが明確に分かれる。両方やった会社はあまりうまくいきません。

本記事では、その分岐点を整理します。読み終わったときに「うちは1人型で行くべきだったな」「全社員型に振り直そう」と判断できる粒度を目指します。さらに、どちらの方針を選んでも崩れないために経営者本人が握っておくべき前提も書きます。

なぜこの論点で会社が割れるのか

まず、両方の方針それぞれに「一見正しい」理屈があります。だから割れる。

DX担当1人型の言い分は、「集中投下した方が早い・責任が明確・教育コストが最小」です。社内に1人プロフェッショナルを置いて、その人がツール選定から運用まで握る。情シスの強い延長として、シンプルです。

全社員型の言い分は、「スケールする・属人化しない・現場発の発見が出る」です。1人だと業務の多様性に追いつけないし、その人が抜けたら止まる。だから最初から全員に配る。

もう一つ、現場でよくあるのが消極的な理由で全社員型に流れるケースです。「DX担当を任せられそうな、システムが得意な人やITリテラシーが高い人材が社内にいない」という会社では、専任化したくてもできない。

こうなると、全員に少しずつ触らせて、現場発で「お、この人センスあるな」という適任者が自然に浮かび上がってくるのを待つ方が現実的、という結論に落ち着きます。

1人型を選びたくても選べない会社は、最初は全社員型で走り、半年〜1年後に内部から育ったDX人材を後付けで専任化する流れになります。これは「妥協の全社員型」ですが、悪い選択肢ではありません。最初から1人型に無理矢理寄せて空中分解するより、ずっと健全です。

どちらの言い分も正しいです。ただし、自社の状況に合うかどうかを判断せずに方針を選ぶと、失敗する可能性が上がってしまいます。

「DX担当1人型」が伸びた会社の条件

支援してきた中で、1人型でうまく回った会社には共通の条件がありました。会社側の条件と、担当本人の条件の両方を満たせているかで決まります。

会社側の3条件

  • 業務フローが標準化されている: 部署ごとの業務手順がドキュメント化されており定型業務の比率が高い場合は、DX担当がAI化する難易度が下がります。ただし、中小企業ではそのようにドキュメント化されていることのほうが少ないかと思いますので、その場合はDX担当がその業務担当者と密にコミュニケーションを取って業務を理解しながらAI化を考えていくことができなければいけません。
  • 社員数50人以下: 1人が全社の業務を把握できる規模である必要があります。また、そのためDX担当は特定の業務特化の人材よりも、全社横断的に業務を把握しているポジションの社員の方が適性があるかと思います。

例えば、社員30人の建設関連企業では、若手1人をDX担当に専任化して、3ヶ月で議事録自動化と見積書ドラフト生成を全社に浸透させていました。1人に集中投下することで、早く結果が出る。

1人型が向くのは、業務が単純でスケールが小さい会社ということになります。

担当本人の2条件 — 実はこちらの方が決定的

会社側の条件を満たしていても、肝心のDX担当本人にこの2つがないと、ほぼ確実に回りません。むしろ会社の条件以上に、ここを外すと一気に難易度が上がります。

  • 権限を与えられているか: 「これは使える」と判断したAIを、自分の判断で社内に入れる権限。または経営者が即決できる導線。担当者がベンダー比較・契約交渉・現場展開まで動けるだけの権限がない場合、判断のたびに上申・稟議・決裁待ちが入り、3ヶ月で停滞します
  • 他の社員に動いてもらえる立ち位置か: 言うことを聞いてもらえる、慕われている、業務理解がある。社内政治的に弱い人や現場業務をよく知らない人をDX担当に置くと、判断が正しくて権限もあっても、誰もついてこないという事態になります

この2条件は、経営者の任命と日常的な後ろ盾でしか作れません。「IT得意だから」だけでDX担当を選ぶと、必ずどちらかが欠けて崩れます。逆に、ITリテラシーが中くらいでも、社内で慕われていて経営者からしっかり権限委譲を受けている人を立てると、想像以上に回ります。

「全社員AI型」が伸びた会社の条件

逆に、全社員に配って成功しやすい会社の共通点はこうです。

  • 業務が属人化している: 営業・企画・現場で求められるアウトプットが個人ごとに違う
  • 社員数100人以上: 1人で全社の業務を見るのが物理的に不可能
  • 現場メンバーの平均ITリテラシーが中以上: 自分でプロンプト工夫ができる素地がある
  • AI推進チームの立ち上げ:AI推進を管理してPDCAを回すためのチームを各部署から抜粋して組成すること

例えば、社員150人の士業系企業では、ChatGPT Teamを全社員に配り、各部署で勝手にユースケースが立ち上がっていました。担当者が見つけたパターンが社内Slackで共有され、他部署が真似する。1人のDX担当ではこのスピードは出せません。

全社員型は、初期投資(ライセンス費用と最低限の研修)はかかりますが、運用が始まると伸び方が指数関数的です。

50人未満で全社員型に振った失敗パターン

逆に、条件を読み違えるとどう転ぶか。

社員30人の会社で「全社員にAIを配る」と決めた事例。研修も丁寧にやり、ライセンスも全員分用意した。半年後、使用率は5%以下でした。

原因は明確です。誰も「自分が旗を振る」役割を引き受けなかった。30人規模では、「全員でやる」は「誰もやらない」と同義です。リーダー不在のままフェードアウトしました。

結局この会社は、半年後に若手1人をDX担当に指名し直し、そこから3ヶ月で立て直しています。最初から1人型で行けばよかった、というシンプルな結論です。

200人超でDX担当1人にした失敗パターン

逆方向の失敗もあります。社員250人の製造業で、DX担当を1人専任化した事例。

最初の半年は順調でした。議事録、見積、社内マニュアル生成。3つの業務が回り始めた。ただ1年経った頃、その担当者が異動になりました。

そこからAI導入が完全に止まりました。「あの人専用ツール」になっていて、引き継ぎが効かない。各部署からの「うちでも使いたい」の声に応えていた人がいなくなったので、相談先がなくなった。

この規模では1人で抱えるのは無理だった、というのが後からわかった結論です。

方針を決める前に欠かせない大前提:経営者自身が誰より先にAIを触っている

ここまで「1人型か全社員型か」で書いてきましたが、どちらの方針を選んでも崩れないために欠かせない前提が一つあります。

経営者自身が会社の中で一番AIを意識しているかどうか。

これがないと、どちらの方針も社員はついてきません。1人型なら、経営者がDX担当の判断を理解して即決できないと止まる。全社員型なら、経営者がいない場で社員が「使ってもいいのか」を迷ったときに動けない。

「自分は触らないけど、君たちは使え」だと、ほぼ確実に冷めます。中小企業では特に、社員は経営者を見ています。経営者が触っていないAIを、現場が業務に組み込むことはほぼありません。

逆に、経営者が「これすごい、めちゃくちゃ便利だった、みんなも使ってみようよ」と毎日のように発信していれば、方針はどちらでも回り出します。「うちの社長、毎週何か新しいAIの話してくる」という状態になると、社員も真似で触り始めます。

マインドの話に聞こえますが、結果に直結します。AI導入で一番投資効果が高いのは、経営者本人が今日からAIを毎日触ること。これは1人型でも全社員型でも、共通の前提として動かせません。

経営者が今週やるべき1つのアクション

長く書きましたが、経営者がやることはシンプルです。

まずはどのようにAI化を進めるか方針を決める。決めたら、経営者自身が一番AIを触る姿勢をその場で宣言してセットで見せ始める。「今週からこのツール毎日使う」「使ってみてどうだったかを来週の会議で全員にシェアする」みたいな具体的な行動まで降ろす。

方針が決まれば、ツール選定は付属の作業です。1人型ならその人の手に馴染むツール、全社員型ならSSOやライセンス管理が楽なツール。順序が決まれば後は流れます。

まとめ:組織設計と経営者のマインドセットがAI導入の本丸

「どのAIを入れるか」等は後です。「誰がAIを推進するか」を先に決める。そして経営者自身が誰より先にAIを触る

中小企業のAI導入の成否は、ツールではなく、この組織設計と経営者のマインドセットで半分以上決まります。ツールは後から差し替えられますが、組織体制と経営者の姿勢は1年単位で結果に出ます。

1人型なら担当本人の権限と人望、全社員型なら現場の自走力。どちらにせよ、経営者が一番先に触っていることが共通の前提。

これだけで、半年後の景色が変わります。


AI LIFEでは、KMCの自社運用や会員企業のAI導入事例をベースに、こうした組織設計の判断や経営者のAIとの向き合い方を日常的に議論しています。「うちはどっちに振るべきか」のような相談もできる場です。興味があれば一度覗いてみてください。
(参考:AI LIFEとは

Author

松原 潤

松原 潤

官公庁→大手向けITコンサル→SIer→中小企業向けITコンサルを経験。 現在はAIコミュニティ「AI LIFE」を運営しつつ、DX/業務改善、CRM・Web・データ活用を支援。 生成AIと自動化で“売上アップ×工数削減”を実現するのが得意です。